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確かに自身もミスティ達のように不可解に思うが、ここまで来れば、彼を疑う余地はない気がする。
そして、カナードがイクスの側まで歩み寄り、岩壁を睨み付けて訊ねる。
「本当にこの先に道があるのか? どう見ても壁しかないぞ?」
「あります。オレにまやかしは通用しません」
「……ならば、その隠された道とやらを破りなさい」
「はい。では……」
フィオナの命のあと、さながらいま始めると示唆するように口にしてから、イクスは手の甲で右の穴の壁を軽く小突く。
すると、硬いはずの岩壁にまるで、水面をつついた時に生じる波紋のようなものが発生し、岩肌を揺らした。
「な――」
驚きの声は誰のものか。ミスティかフィオナかカナードか。もしやすれば自分のものだったのかも知れない声が辺りに響く中、まるで水面に手を突き入れるかの如く気軽にそして滑らかに、イクスが壁の中に手を滑らせた。
「よっ」
そして、一堂瞠目と唖然を共にする中、こちらを振り向いて二言。
「先に行きます。後からどうぞ」
イクスはそう平然と口にして、何の警戒もなくするりと壁の中へ消えてしまった。
……待て、と言う暇もない。呆気に取られ、驚きに戸惑っていると、今度はイクスの連れて来た黒猫が、尻尾に結わえられた赤いリボンを揺らしながら、てとてととイクスを追い、同じく壁の中へ入ってしまった。
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