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すると、後ろの悪魔が自分の心の内でも読んだかのように、語り掛けてくる。
――ソイツにとって、戦いはここに入る前から始まってるのさ。状況を正確に読めなかったり、読み違えちまっただけで、遭遇した瞬間に敗北が決定的になることもある。
(だから、やけに観察眼が鋭いと?)
――ちょいと見てみぬふりをしただけで命取りになるんだ。そりゃあ自然に洞察力も良くなるだろうぜ。
などと薄笑いを響かせて語る悪魔の話を聞いていると、またイクスが顎に手を当て思案顔を見せる。
「おそらくですが例の敵は賊の頭ではないのかもしれません」
「仲間か何かだと?」
「仲間、ですか……」
フィオナの訊ねに、イクスは頷きとは言えない歯切れの悪い返事をする。すると訊ねた彼女はその先の言葉を引き出そうとするように、更に訊ねを重ねる。
「その答えでは思うところがあると?」
「……この手合いと言うのは総じて矜持が高い連中が多いですから、賊相手に仲間意識を持つとは普通なら考えにくい話です」
イクスが言うと、フィオナはこの先にいるだろう塒の主のあり方を業腹に思うか、鼻を鳴らした。
「……賊などに荷担するクセに矜持だけは一人前ですか。程度が知れますわね」
「ま、まだ推測の域を出ませんが」
フィオナの怒りに、振り向いて少し焦ったような声を出すイクス。その焦りの出所はおそらく、フィオナが言った“程度が知れる”との厳しい言い様だろう。彼女が油断ならぬ相手を下に見るようになったかもしれないと、危惧に及んだのだ。
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