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“魔物だ”と。
人とは住む場所を隔て、普段人里に出ることのほとんどない魔物の、その雄叫びが“聞こえた”という事態の理由は、イクスの頭にも彼らが近くに居る事が容易に想像出来た。
しかもその魔物の声に聞き覚えのあったイクスは、その危険性をすぐに理解し、できるかぎり村から遠くに誘導するため、飛び出して行った。
普通の人間ならまず間違いなく、こんな真似はしない。否、しようともできないだろう。
そんな無謀な勇気を振るえば、魔物に襲われて餌になるのが哀れ人間の運命なのだ。
だが彼には自信があった。自分なら上手く森までおびき寄せて、魔物を撒いて逃げ帰れる。この魔物は意外と鈍重だ。
もし、アクシデントが遭っても大丈夫だろう。それにいざという時の対処法も持ち合わせていたので、イクスが過信を持つに至る理由は十分だった。
そして、イクスは当然のように魔物の前に躍り出た。
巨大な熊にも似た魔物の恐るべき体驅にも、耳をつんざく咆哮にも臆すること無く、彼は自身の“やるべきこと”を遂げに森の中へと走って行った。
首尾は上々。イクスの思惑通りに事は運び、魔物は彼を追いかけてきた。
誰もが上手くいったと言うだろう。
ただ、ただひとつ彼にとって予想外だったことを除けば………、
「三匹いるなんて聞いてねぇぇぇえ!!」
……そうなのだ。イクスの予想に反して、熊に似た魔物“リズベア”は三体もいたのだった。
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