3059人が本棚に入れています
本棚に追加
/250ページ
イクスの耳に、地面を掘り返すような重たい足音が迫る。
「……やるしかないか」
チラリと魔物を目端に捉え、逃亡の限界を感じ取ったイクスは、諦観の表情を決意に変えて、ザッと砂埃を巻き上げ身をひるがえす。
ちょうど木々の少ない開けた場所に出た事もあり、イクスはこれ以上の遁走(とんそう)をあきらめて、リズベアを正面に、大木を背にして、対峙した。
イクスを取り囲む形で位置を取るリズベア。
それら全てが殺気と食い気に満ち満ちていた。
獣口からだらし無く滴るよだれが、気持ち悪い事この上ない。
「――――――」
一際大きな獣吼の直後、正面に位置取っていたリズベアが、イクスに向かって恐ろしい勢いで突き進む。
―――突進。
「うわっとぉ!!」
イクスはそれを横っ飛びで回避する。
ゴロゴロと地面を転がり、そして立ち上がった。
その動きにも顔色にも、余裕は見えない。
一方のリズベアはイクスの右スレスレを突き抜け、勢いあまって後ろにあった大木に激突する。
衝突に痛みを感じたのか、今までとは違う声。
そして、後ろから木が折れた音が聞こえた。大きな音から、かなりの衝撃だったと推測出来る。
「ふっ―――!」
一瞬の機会を見つけ、イクスはスッ、と身体と足を動かす。
最初のコメントを投稿しよう!