逃げろ!

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 そんな彼のすぐ後ろから、ひゅう、と一陣の風が吹いた。  ――自業自得だ、バーカ。 「うぐっ!」  風に聞こえた空耳に、イクスの眉根が吊り上がる。  しかし、かぶりを振り、今はそんな場合ではないと、もう一度、目の前のリズベアに集中し直した。 「いくぞ……」  イクスもそろそろ反撃に転じないとマズイと思い、腰に挿してある剣に手を掛ける。  ダガーよりも長く、ロングソードよりも短い、いわゆるショートソードと呼ばれる種類の剣。  イクスはそれを引き抜き、構えを取った。  剣身が僅かな木漏れ日を受けて鋭く輝く。  刃毀れ一つ無いそれは、彼が毎日毎日欠かさずに手入れをしている証だった。 「らぁぁぁあ!」  そのまま間髪も入れず、先手必勝とばかりに一番左側の一体に切り掛かる。剣の切っ先は弧の軌道を描き、敵の急所目掛けて――― 「――――――!」  視界に捉えた魔物が動く。  リズベアもイクスの攻撃に気付き、丸太のように太い腕を横薙ぎに思い切り振り抜いた。  巨腕から繰り出される一撃。まるで鉤のように鋭角に曲がった大きな爪が、イクスを切り裂かんと迫る。  だが、イクスの動態視力はかなりいい部類に入るもので、リズベアの迎撃を難無く視認できた。
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