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「――っ! あっぶ……どあぁぁ!」
イクスは振り抜こうとした剣を急停止させ、そのままリズベアの懐近くで身を低くして伏せる。
横薙ぎの攻撃を寸での、本当にぎりぎりの線で回避する。
――重い、重すぎる一撃。“切り裂かれる”では済まない、アレに当たれば間違い無く弾けて潰れる。
ぐしゃり、と。腕が足が内臓が脳が眼球が喉が鼻が口が胸が腹が――
はらりと彼の金沙(きんさ)の髪が数本落ちた。
躱(かわ)した後ながら、もしあれが自分に当たったらと、身震いする。
「勘弁してくれよな……」
魔物と近接戦闘を行う恐怖を、再確認させられた。
――しかし、イクスもかなり早くから爪の軌道を捉えていたのに、何故危うかったのか?
事実、彼も好きでギリギリにかわしたわけでは無い。反応は出来る。攻撃も見えるのだが、悲しいかな、彼の身体が反応速度に付いて行ってくれないのだった。
「――――――!!」
もう一度リズベアの巨腕が唸る。横殴りに迫るそれは、さながら無秩序な暴風のようで―――
イクスは脳裏を過ぎった嫌なイメージを振り払う。あれを躱せなければ終わりなのだ。
「動け――!!」
左耳を掠めて抜ける。
――音が飛ぶ。
上手く躱すことが出来た。
――だが左耳は聞こえない。
「うぅ……」
イクスは躱しざまに苦悶の声を上げる。しかし、上出来。危ない一線だった大振りの攻撃をかわし、動きを崩したリズベアは大きく隙を作った。
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