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前方から怒涛のように攻めてくるスィエルを現戦線で抑えられる力はすでにない。甚大な被害を出し続けてでも戦線を維持するか、それとも一旦下がって部隊を整えるべきか。
「陣地を引き払った可能性もあるな。よし……各個撃破しつつ全軍下がるぞ」
こうして左翼部隊である第11師団は後退を始めたのであった。しかし、この選択が間違いであったとわかるのは通信が回復し、中央部隊の悲鳴に近い増援要請を耳にしたときであった。
戦場の混乱と司令部の移動準備による手違いで起きた通信断絶。
迅速な撤退のための陣地を引き払う準備が裏目に出てしまった。戦況がさらに動く。第11師団が下がった間隙を突いて、必死に耐えていた中央部隊の側面にスィエルが猛攻撃を行ったのである。
前面だけでなく側面にも攻撃を受けた中央部隊は戦力の過半数を喪失し、右翼部隊へと移動を始めた。
「第11師団との通信途絶が回復しました。現在地は第24区陣の南西5キロです」
「近い……近すぎる。その距離では対応できないではないか」
泉方面総監は手違いを起こした指揮官を恨まずにはいられなかった。
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