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敗走中の中央部隊は右翼部隊を巻き込み攻勢には出られないし、左翼部隊は独断で後退……。
反撃用の予備戦力である二個普通科大隊も、この状況下ではまともに機能しないであろう。反撃の糸口は全く見えない。
泉方面総監は決断を迫られていた。これ以上の損害を出す前に撤退をするか、無謀な反撃にでるか。
「――撤退だ」
やけに静かな声であった。しかし喧騒の総監部の中でも小さなその一言は、はっきりとよく聞こえた。
「もう一度言う。撤退だ」
幕僚が確かめるように泉方面総監に尋ねた。
「まだ戦えるのでは?」
「いや、これが引き際だろう……我々の惨敗だ」
幕僚一同を目の前にした泉方面総監の言葉には、後悔の念が深く渦巻いていた。
ドサッという物音と冥さんの声で我に返った。目の異常はもうない。黒丞も普通に見える。しかし、今は僕のことなどどうでもいい。僕よりシャルロッテのほうが先決だ。
冥さんの背中にもたれかかるようにして、シャルロッテがぐったりとしていた。
無論、今がチャンスだとかそんな囁きなどないというかなにがどうチャンスなんだコノヤロー。
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