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両手を回した彼女の体は細く、とても裏家業の人間とは思えないほど華奢なそれである。
「頼む。天地隊長は僕にとって……大切なんだ」
黒鐵と白鐵が音をたてて床に落ちた。そのしなやかな手は、迷うことなく背後で結ばれた。
「冥さん……」
僕は半歩下がると改めて冥さんを見た。彼女の頬はやや朱に染まり、視線は斜め下に向けられている。申し分なく可愛らしいものである。
「春日さん……」
瞳にうっすらと涙を溜め、また僕へと手を伸ばして――
「ふざけないでくださいいいぃぃぃっ!」
そのままブレーンバスター。
ゴキンとかいう危ない音をたてて頭が床にめり込んだ。
痛いとか言ってられない。今度は僕のほうが目に涙を溜める番だった……冥さん、この仕打ちはあんまりです。
「んなもん知りません! 人が心配して言ってるのにー! あれですかー? 色仕掛けか!? 困ったら色仕掛けなんですかー!? 人としてダメですよー」
はひっ、おっしゃる通りです。仁王立ちの冥さんはフンと鼻を鳴らすと、
「春日さんには幻滅ですー! どことなりと好きなところに行ってくださいー」
うぅぅっ、あんまりだ。
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