第二章 出会い

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俺は、どんな講義も内容は理解してなくてもノートだけは写していた。なんか安心するから。「早く写しちゃいなよぉ~ジュース、ジュース(笑)」と無邪気に笑う夏実に俺は精一杯我慢をして「ありがとう...」と言ってノートを借りた。人間は不思議だ。ここまでされると自然と相手のペースに巻き込まれてしまう。講義が終わって廊下に出ると、夏実が追ってきた。俺は無視して歩き続ける。「ねぇ、矢内君」俺は目を合わせない。合わせたらまた夏実のペースに巻き込まれると思ったから。ひたすら競歩選手みたいに、早く歩いた。もはや走りかけた。「矢内春樹!!」俺はびっくりして振り返った。人間フルネームで呼ばれるとドキっとするもんだ。振り替えると満面の笑みで夏実は言った。「ジュース~(笑)」俺は呆れた。なんだこいつ。早くこいつから離れたい。思った俺は財布から100円を出して夏実に渡し、逃げるように歩きはじめた。「矢内春樹!!」まただ。いい加減俺も腹が立った。「なんだよ!!まだ何か文句あんのか!」言ってしまってから後悔した。静かに目立たないように。これが俺のモットーだった。
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