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「橙!どこだ橙!」
マヨヒガから少々離れた辺りを桜火は飛んでいた。
本邸は何者かに荒らされた後があり、いくつかの品が消えてもいた。
だがそこに橙の姿は無く、それどころか争った後も見当たらなかった。
その後周辺の探索をし、戦闘の後を発見今に至る。
「しかし、これはひどいいったい…どうやればこんな事になるんだ」
橙の姿を探しながらも彼はこの惨状に驚きを隠せなかった。
薙ぎ倒された木々、抉られた地面、所々に針と札…
「…橙が戦ったのはどんな奴だったんだ?」
橙とて妖怪で式神である、少しかじった程度の相手に負けることはない筈だ。
が、現状見た限りでは相当な実力者が相手だったはずである。
(橙…無事であってくれ)
と、視界の端に尾が2つある生き物を確認し桜火はすぐに向かう。
半ば埋まったその身を抱え上げるとそこには見慣れた二尾の猫がいた。
「橙、返事をしろ橙!」
式が抜け落ち猫の姿になった橙は返事を返すこともなく眠り続ける。
「くっ…」
この場でこうしていても埒が明かない。 桜火は橙をしっかりと抱き締めるとマヨヒガへと飛んでいった。
「もう大丈夫だ」
橙の診察をしていた藍がそう言ったのを機に桜火は座り込んだ。
「よかった…見つけた時はどうなるかと」
「手当てが的確だったのが良かった。桜火のおかげだよ、ありがとう」
「いや、見た目より傷が酷くなかった。手加減してあった筈だ。そもそも私が不甲斐ない為に橙は…」
俯く桜火に藍は微笑みながら告げる。
「だが、お前が気付かなければ危なかった。何よりこれは事故のようなものだ、気にするな」
やはり俯きながら桜火は、ありがとうと言ってその場を後にした。
藍はそれを黙って見送ると橙の額に乗せた手拭いを交換した。
そしてしばらく経ち、ようやっと春の装いを感じ始めた頃、マヨヒガは侵入者を迎える事になる。
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