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私が蝶になった夢を見たのか、蝶が私になった夢を見たのか そもそも考えるだけ無駄な事だ、そう不安になった瞬間そいつは自身を失っている。 ならば、“私”はどうだ?そもそも私は───何だ 目が次第に開いていくのがわかる、どうやら自分は眠っていたらしい。 (あれは天井?) 名称は分かるがここが何処かは分からない。 少なくとも外ではないようだ。 いよいよ、分からなくなり思案に耽ろうとしたところで異変が起きた。 何もない所から手が生えてきた。 (待て待て、腕は生えるものではない) そう考えたのも束の間、いよいよ全身がでてきた。 身構える。数十通りの迎撃策が頭にうかぶ (…何故こんな事が浮かんでくる) 訳の分からないことばかりである。 取り合えず男は上半身を起こす、寝ていては反応しても行動し辛い。 出て来たのは随分と美しい女だった。 こちらを見て笑みを浮かべている、安堵の色が見えた。 「よかった、起きたのね」 「…ああ」 「ふふっ此処が何処かわからないって顔ね」 少なくとも死んでないわよ、と女は不思議なことを言った。 まるで死ぬ筈だったような言い方だ。 「聞いてもいいか?」 何を?と女は続きを促した。 「私は誰でお前は誰だ」 女の顔から笑みが消え、変わりに驚愕に彩られた。 しばらく、何かを呟いたかと思うと一つ息を吐き───雰囲気が変わった。 「私は八雲紫、妖怪よ」 そう言った。妖怪、人を遅い人を喰らうモノ ソシテワタシノソンザイリユウ 「ぐっ!」 突然の頭痛に襲われ呻くものの八雲紫から男は目を外せない。 「あなたは私が外から拾ってきたのよ」 「私をどうしようと?」 喰う者を治癒する必要はない。ならば他に理由があるはずだ。 紫はくすりと笑い、宣告した。 「桜火、あなた私の従者になりなさい」 聞き慣れない言葉が二つ、従者と桜火。 紫は続ける。 「あなたの名よ、桜火。いい名前でしょう?」 「…桜火」 “いい名前でしょう?”から考えるに紫が考えたものなのだろう。 男──桜火は、起き上がり紫の前まで歩き立ち止まった。
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