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「藍殿、橙を連れてきましたよ」
「ただいまですー」
すると、奥からトタトタと音を鳴らし藍がやって来た。
「橙お帰り、桜火もご苦労様」
橙は藍に抱きついて甘えだし、桜火は軽く会釈する。
藍は橙を撫でながら桜火の後ろを見て、
「揃いました紫様」
といった。
桜火が振り向けばそこには微笑む紫がいた。
(紫様、ようやく起きられたのか)
今年は冬が長い。桜が蕾をつけることもなく梅の香りもせず鶯の鳴き声も聞こえない。
彼の主である八雲紫は冬眠する。故に主の寝覚め=春がきたが彼の認識である。
だが前述したとおり未だ春は遠い、その矛盾に彼は頭を悩めた。
「さて桜火、橙」
そんな事を考えていると紫から声をかけられる。あわてず騒がずあくまで自然に。
「はい、紫様」
「はい、何ですか」
桜火も橙も紫の言葉を待つ。彼らはそれが何であれ紫の言うことを為さねばならない。
「橙はお留守番、招かれざるお客様が来たら追い返してちょうだい」
「は、はい」
殺しちゃってもいいわよ?と茶目っ気を加えて紫が言うと橙はまたもや返事をした。…心なしか嬉しそうに。
「桜火は周辺の探索侵入者は殺してもいいわ、範囲は広めに」
「了解しました」
ついでにタラの芽も探してね、と茶目っ気を加えて紫は桜火に無理難題をけしかけた。何度も言うが春はまだ…遠い。
「わかり…ました」
なんとも哀れである。
「それで、どちらに行かれるのですか?」
ふふっと微笑むと
「何処だと思う?」
と謎掛けをする。
桜火は考え出す。外出着はさほど派手では無いもの、笑っている紫、藍もお供らしい。そして、酒。
「白玉楼…ですね」
「正解、よくわかったわね」
勘です。と桜火は短く告げる。
紫はそれを見て笑いながら
「幽々子からのお誘いでね、幻想郷で唯一春があるそうよ」
それを聞いて桜火は目を見開いて驚いた。何せ春が来ない原因であろう事は容易に想像できた。
紫は珍しい物が見れたと上機嫌である。彼女は幽々子を咎めようなど考えてもいないのだろう。
「では行ってくるわ、言いつけはちゃんと守るのよ」
「橙、危ないことはしないようにな」
「はい、藍様!」
「行ってらっしゃいませ」
二人は隙間に消えていき、後には桜火と橙を残すのみであった。
幻想郷の春は未だこない。
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