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妖々夢~未だ己掴めず~
マヨヒガの庭で、桜火は剣の型の練習をしていた。
彼が紫の従者となって既に五十年は経った。
しかし、一つ不思議なことがあった。
「君は本当に何者だろうね」
「おや藍殿、どうしましたか」
八雲藍、紫の式神である。ある意味桜火の上司と呼べる存在だ。
「いや、君は変わらないなと思ってね」
「ええ、私は何者だろうか」
そう言って、桜火は自分の姿を確認しだした。
黒のロングコート、ボディーアーマーらしきもの、ズボンとそれに下げられたホルスターに入れられた呪符。
そして───
「こいつが何か知らないものかな」
そう桜火が言うと、藍はくすくすと笑い、そうだなと応えた。
──封妖刀、それが“こいつ”の名である。
紫、曰わく桜火のモノであるらしく桜火にしか使えないらしい。
が、それよりも問題なのは、
「君は何故年を取らないのか、これが謎だ」
そう、数十年経った今でも彼は一切老いていないのである。
「妖怪か人妖か、それともそれ以外か」
「こらこら、人間が抜けているぞ」
「おっといけない」
そうして、二人で笑い合うこの話を何度となくしたが、終わりだけは何も変わらない。
「紫様は『桜火は桜火、私の従者よ』としか言わないしな」
「まあ、何か訳があるのでしょう」
今度はお互いに苦笑する。彼らの主の真意など読もうとして読めるものではないと知っているからだ。
「さて桜火、そろそろ休憩にしないか?」
「ええ、藍殿のお誘いは無碍にできませんしね」
笑い合いながら彼ら家に入っていく。
彼が今まで居た場所から主が出てきたことに気づくことなく。
「まだ、まだ早いわ。果実は熟してからでなければね」
そう呟くとまた境目に紫は消えていった。
まだ、何も始まらない。
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