天気雨の別称Ⅰ

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 「ただいま~」  「お兄ちゃんお帰りなさい。今日は遅かったね」  「うん、ちょっとね」  「そ?・・・じゃ、お風呂にする?ご飯にする?それともわ・た、」  「ご、ご飯にするよ」  優梨と他愛ない会話をしながら夕飯を食べる秋勾。・・・だが、いつも優梨に視える犬の垂れた耳とふわふわの尻尾が見えなかったことに気になって、会話のほとんどが耳に入ってなかった。  それほどまでの違和感。いつもなら何が起こってもすぐ忘れられるような単純さなのに、これだけはどうしても気になってしまう。  ずーっと気になって就寝を迎えるが、ここまで一つのことが気になって他が見えなくなっているのもある意味ボーッとしている者のなせる技かも知れない。  布団に入っても、何かの喪失感。だが、意外とすぐに眠ってしまった。こういうところはいつも通り。流石。  深夜零時。誰かが秋勾の部屋のベランダに降り立った。そして窓に手をかけようとしたが、刹那のところでその手が止まった。  「・・・」  秋勾が何かの気配を感じ、窓を開けた。・・・だが、そこには何もいなかった。そして、秋勾は再び寝始めた。流石。
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