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少女はちょっとだけいつもの気の強そうな顔をして、秋勾に問いかけた。
「あんたさぁ、天気雨の別の呼び方知ってる?」
「知らないよ」
「そんなのも知らないの?驚いた・・・」
「・・・だって天気雨、だって知らないのに」
「ああ、そうか・・・じゃ、教えたげる」
少女は秋勾の顔を覗き込み、イジワルそうな顔をする。秋勾はちょっとたじろいだ。
『・・・狐の嫁入り』
その言葉を聞くや否や、秋勾の足は急に折れてしまった。・・・念のため言うと、骨が、ではない。関節がガクンと落ちたのだ。力が抜け、筋肉が緩みっぱなしになった。・・・力が入らない。
「大丈夫よ。死にゃあしないわ。そんなたいしたものじゃないのよ・・・えっと、この場合は、狐に婿入りとでも言うのかしら」
婿入り?と聞き返そうとするが口が開かず舌も動かず。気がつけば体中の筋肉が弛緩していた。もう瞼も開けないほど衰弱しきった中、耳だけがよく機能していて、その一言だけは聞こえた。
「・・・そうだ、まだ言ってなかったわね、私の名前。・・・神森 昏(かんもり こん)よ、覚えときなさい」
昏か・・・と、そこで秋勾の意識は落ちた。
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