長い時間。

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 その男はただひたすらと待っている。  突き当たりが存在しないとの錯覚に陥りそうな廊下の端に並べられたパイプイスにはその数だけ人が座っている、おおよそ五十はいるだろうか。  微かに浮かぶ廊下の果てには真っ白で飾り気もないドアがあるのみだ。  某所のとある施設に設けられたこの並びは端からは面接を待っている人々に感じられるかもしれない。 「緊張しますね」  不意にドア側の方向のイスに座った隣りの女性、つまり私より順番が早く訪れる即席の隣人たる彼女が話し掛けて来た。 「そうですね、ドキドキしていますよ。えっとあなたはお若い様ですが……」 「あはは、私、今年で二十歳になります」  背中にまで延びた長い黒髪が特長の、まだあどけなさが残る女性だ。二十にしては大分若い印象を持つ、高校生ならしっくり来るだろう。 「若いですね、私は四十ですよ」  自己紹介を交わしたその時だった、白いドアが開き軋みを廊下に木霊させた。  その途端、イスに座る者は一斉に音の発生源へと集中する。  そこから現れたのは小さな男の子、髪は坊主、Tシャツに半ズボン。とても可愛らしい。 「やったよ、やったんだ! わーーい!」  男の子は喜び狂う。  その行動を目撃した我々は当たり前にこう言った。 「おめでとう」  みんなで拍手をおくり、そこはもう、拍手の音で支配していた。 「やったよ! やったあ!」  スキップしながら男の子は去っていった。
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