第3章

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「ただ、今回の話にも前の話にも裏があってな」  おまえも吸うかと、一本出して俺の前に差し出した煙草の箱を丁寧に送り返し、先を促した。 「その女子生徒は2件とも同一人物で、あいつと結構仲良かったんだけど。実はその教師と付き合っててな、元からセクハラなんか無かったんだよ。付き合ってることを内緒にしてたんだ。まぁセクハラにしろ交際してたにしろ処分は下るわけだから、バレるのを恐れたんだな。女子生徒はセクハラがあったことを否定して、男性教師の無実に繋がったって話。意味、わかるか?」  無い頭を必死に働かせて、細かく頷いた。 「今回も、その女子生徒と彼氏が組んで、わざとあいつが切れるように仕向けたんだよ。で、さっきあんたにツッカカってたのが、その彼氏なわけだ」  火を消し、もう一本箱から出して火を着けた。吸える時に吸っておかねぇとなと、無邪気に笑った。  彼は俺が煙草をバラさないと思っているのか。楽観視しているように次々と煙草を肺に入れ、美味しそうに目を細める。 「何でそんなことするんスか」  理解できない。怒りが、沸いてくる。 「好き嫌い別れるからなあいつ。良く知らんがどんな手使っても、退学させてぇんだよ」 そう言うと、ズボンの後ろポケットから財布を出し、折り畳んである紙を中から出したと思うと、俺の前に差し出した。  戸惑っていると「ん」と取るように促され、言う通りにした。しかし、取ろうとした瞬間、伸ばした手は空を掴んだ。彼が、スッと、紙を避けたからだ。 「な、何スか」  彼は俺を一蔑して、紙に目を落とし、煙草の煙を吐いてからもう一度俺を見た。と言うより、睨んだと言った方が正しい。 「おまえ、あいつの何なの」  その問掛けは遠慮も配慮も気遣いも無く、刺すように俺の胸に突き刺さった。ただの幼馴染みにしては、この視線は痛すぎる。  見下しているのではない、軽蔑でもない、けれど其れより冷ややかな目を、俺は今この瞬間まで見たことがない。恐怖にも似た、感情。 「俺、俺は」  俺は、彼女の何なのだろう。友達、ただの客と店員、顔見知りなだけかも知れない。下手したらストーカーとも捕えかねない。  彼女が俺をどう思っているかなんてわからないけれど、少なくとも、それでも、俺は。 「俺、わやまさんに惚れてます。ただの根性無しの馬鹿スけど、ただの客かも知れないスけど、俺本気です。会いたいんス。まだ、伝えてないから、話したいんス」
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