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どうしようもない焦燥。膝から崩れるように座りこむと、何時の間にか整っていた呼吸と鼓動に気が付いた。
「ははっ」
自分で自分がおかしくなった。《屋上》しかないと思いこんで、他の場所の可能性を考えなかった。
誰が此処にいると断言したのだろう。涙が出そうになるのを必死に堪えると、笑えてくる。
「馬鹿みたいだ」
『見つからないの?』
風が止んで、小さな声が落ちてきた。降り返ったその瞬間、風が、一斉に通り抜けた。
唯一の扉の上、学校で1番高い位置で、足をぶら下げて座る女子生徒。
「わやま、さん?」
『よっ』
足を組み、右手を挙げて笑う。そこにいるのは紛れもない彼女で、探していた人そのもので、言葉もなく、理性も思考もなく、その光景を見上げるしかなかった俺は、正気に戻って漸く言葉を発した。
「よっ、じゃないっスよ!足!パンツ見えそうスから!」
『パンツなんか見えないよ。それより、探しもの見つかったの?』
「見付かった!見付かったから降りるか足ぶら下げないかして下さい!」
『純情だなぁ~』
わやまさんを見ない様に、もとい、足を組んでいる太股あたりを凝視してしまいそうで、後ろを向いて説得した。体が暑くなるのがわかる。
『チヅぅ』
名を呼ばれ彼女の様子を伺うと、ぶら下げていた足は無く、こちらを覗き見る様な格好になっていた。
『隣、空いてるよ』
梯を登って彼女の元に辿り着く。初めて見る制服姿に、微かに目が眩んだ。
彼女はとても清々しい表情で、此処から見える教室や運動場や遥か遠くに僅かに見える水平線を、眺めていた。
「探しました。だいぶ」
彼女は俺を見て、哀しい様な安心した様な微笑みを見せ、知ってると答えた。不思議とその答えに驚かなかった。
「なんで、3年生だって教えてくれなかったんスか」
『チヅはさぁ、この間の3年生の事件知ってる?』
質問に質問で返された。どう反応すれば良いかいまいちわからなかったが、彼女の話に合わせようと思った。
「わやまさんの幼馴染みのケンソーさん?に聞きました」
そっか、と目を伏せたその表情は、口元に笑みをともしていた。女性のこういう表情を、俺は知らない。
『無期停くらって何時退学になるかも知れないのに、3年生だなんて言えないよ。今回はさすがに退学覚悟だったんだ』
「わやまさん、はめられてたんですよ?セクハラん時だって女が」
『知ってたよ』
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