始まりの種

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「なんで俺だけ……」 すっかり静かになった教室にて。明らかに不満を顔いっぱいに表現したような少年が、ぶっきらぼうにゴミを掃いていた。 黒い髪に澄んだ黒い瞳。その容姿はとても淡麗で、人形のような繊細さと艶を持つ、俗に言うイケメンだ。 この少年こそが、田尾銀である。 「相変わらず要領悪いな、しかも頼まれたら断れないお人好しときた。まったく、可哀相ですねぇ、銀くぅ~ん?」 隣で同じく箒を動かしている少年の冗談にも、つんとした表情だけを向けて答えとする。虫の居所は良くないようだ。 終学活が終わると共に風のような速さで脱走を試みた銀だったが、彼の担任の目は鋭かった。 結局脱走に失敗して、渋々ながら箒を握らされた銀。だが、愚痴を言いながらではあるも、しっかりと手は動かしている。責任感の強い彼らしい。 だが、この場合は責任感の問題ではなかった。今の彼には一刻も早く帰ることしか考えられないのだ。 「せっかくの追加入荷だってのによ……」 「そう怒るなよ、そもそも初回のときに予約忘れたお前にも非があるんだからさ」 そんな愚痴の相手を律儀にこなしながら、これまた箒をせっせと動かしているのは、昔からの銀の良き友人である金森俊也である。彼は掃除当番ではないのだが、銀を手伝って残っている。 「でもよ……」 「ほらほら、口じゃなくて手を動かそうぜ。早くしないとホントになくなるぞ。早く買いに行きたいんだろ?」 「ちぇ、わかったよ……」 普段とは逆の構図から放たれる正論にぐうの音も出ず、銀は箒を持つ手だけを動かすことに専念することにした。 今やこの二人しかいない教室を、二人だけで綺麗にしていく。 ちなみに、なぜ銀だけが掃除当番として居残りを命じられているのかというと、実は今日、銀以外の掃除当番全員が欠席していたからだった。 彼らの町は数日前まで大きな祭りをやっており、その片付けに動員されなかった掃除当番が銀だけだったのだ。
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