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「ちぇ、ついてねぇの……」
もはや何の用もなくなったゲームショップを後にし、来た道を戻り始める二人。寂しげに伸びる彼らの影だけがその足取りについて来る。
「仕方ねぇさ、人気商品だもんな」
「だからって売れすぎじないかぁ?そもそも平日に追加入荷とか……」
ブツブツと文句を垂れる銀に、苦笑いながらも付き合う俊也。長い付き合いだからこそ、こういう愚痴も慣れっこだ。
夕暮れの空には、群れを成した名もわからない鳥たちが、何処の空へと帰路に就いていた。ふと腕時計に視線を落とすと、示す時間は五時半過ぎだ。
「だいたいがお前さぁ、新品でなきゃダメなわけ?中古ゲーム見に行けばあるかもしんねぇのに」
「発売したばかりのソフトだし、さすがに中古じゃあ無いだろ……」
「近頃は新品みたいなきれいなのもあるんだぜ」
俊也は少し話を聞かないところもあるようだ。
それに、銀は中古ゲームが嫌いだった。未開封のゲームを開け、電源を点けたときから彼の闘いは始まる。銀はゲーマーなのだ。
しかし、
(まぁ……見るだけ見てもいいんだが……中古、か……)
銀は揺らいだ。
妙なプライドに従って諦めるのか、少々妥協してでも手に入れるか。
(……はぁ、仕方ないか)
そして、決心した。
「行こう、俊也」
「おし!じゃあついて来いよ、穴場知ってるからさ!」
次なる行き先は、俊也が『穴場』と呼ぶゲームショップだ。
彼らはまだ知らない。
物語が、誰にも知られない程に静かに動き始めていることに。
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