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欲しいものがない以上、この店にももう用はない。肩を落として店を出ようとした。
「……ん?」
しかしその時、ふと見回した銀の目がはっきりと何かの違和感を捉えた。
「…………?」
「ん?銀、どうかしたか?」
「この棚……何か……」
違和感の正体を探るべく、棚を探り始める。そうして行き当たった違和感の原因、それは陳列された中の一つのゲームのようだ。
「これ……」
並んだ状態では背表紙しか見えていないが、タイトルもなく黒紫の一色のみがぶち撒けるように塗られたそれは、明らかに他のものとは異なった何かを醸し出している。
「ん?これか?」
「あぁ……」
俊也の見つめる中、銀はそのゲームを棚から引き抜き、手に取ってみた。表紙の中心には金文字で『Sil†veR』というタイトルロゴらしきものが描かれているが、それ以外のスペースすべてには背表紙と同じく黒紫が広がっているのみだ。
その異様な表紙は不気味ですらあるが、どこか見る者を引き込む何かを感じさせる。
「なんだこれ、変わったゲームだな」
「だろ?でもこれ、“変わった”っていうよりむしろ……“変”じゃないか?」
ここはハ行の『ふ』の棚だ。タイトルから考えると、このゲームはサ行の『し』の棚ろにあるはず。
(まぁ、それは置き間違えとかもあるかも知れないが……)
見る角度を変えると、表紙の黒紫は漆黒へと変化する。今時のゲームには珍しく裏面に説明などがまったくない。タイトルロゴ以外は全て一色だ。
(変なの……なんだこれ……)
頭ではそう思うのだが、しかし銀の足はそれをもったまま自然に歩み出していた。
カウンターに向かって。
「って、買うのかよ!?『pride veil』はどーすんだ?」
俊也の適切な突っ込みすらも気にならない。
何かに突き動かされたかのようにレジカウンターへと向かう今の銀から、このゲームを取り上げるという事はもはや不可能だった。
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