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サイト石の採掘所
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霧のような煙が立ち込める、神秘的な部屋の中。そこに立つ一人の男が、今まさに自分の生み出した成果を見つめていた。
それは流麗な曲線で真円の輪郭を描き出す、水晶玉のような物体だった。不思議な球の内部には暗い空が渦巻き、広大な森が広がって見える。遠くの様子を望遠鏡で覗いているような感覚だ。
「ふむ、流石だな。お前の素質と能力を考えれば良いものが出来るのは分かっていたが、ここまでのものが出来るとは思わなかったぞ」
成果を見つめる男の隣に、いつの間にかもう一人、背の高い男が現われていた。
最初からいた男は褒められた喜びを一瞬だけ顔に表したが、すぐに引っ込めた。
「何を憂いている。確かにこれほどの出来となれば“試練”は大変であろうが、お前の力なら問題なく遂行できるだろう。主となるお前がそのような弱気では、下の者が気の毒だぞ」
後から現れた男が、最初からいた男の肩に手を置いた。
「さぁ、気を抜くんじゃないぞ。必ずや試練を乗り越えろ。その時お前は強大な“神”となるのだ」
期待を一身に背負った姿が、真円の球体に吸い込まれるように消える。結局、その男が言葉を返すことはなかった。
ここに戻ることも、二度となかった。
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