怪談に近しい鎮魂歌

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「おい」 はっきりと聞こえたその声。 そして埃臭い臭い。 「おい。生きているか?」 その声の主は俺を覗き込んでいた。 俺は視点の合わない瞳を無理矢理声の主に合わせた。 長髪の朱い髪、鮮やかな紅葉の着物を着た…少年。 その光景は、もはやこれは夢ではないかと疑うに十分、いや十二分足りた。 「おい。現実逃避したい気持ちは汲むべきであるかとは思うが今は現実逃避するでない」 そりゃそうか、と苦笑した。 そして今更ながら現状確認。 …本当に今更だが、俺は倉庫に仰向けで倒れていた。 掃除していないので、埃の臭いが鼻をつんざく。 そして起き上がろうと手を動かした時だった。 チリン …鈴の音がした。 手で弾いたのか、鈴は床を静かに転がっていった。 相変わらず音は鳴らない。 ただコロコロと転がっていった。 「…」 とりあえず俺は現状理解に全力を尽くす事にした
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