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ぽくっぽくっぽくっ…
家の中に木魚の音が鳴り響いている。
一一藤村家
藤村那波(ふじむらななみ)、享年二十一歳。職業、学生。彼女が失踪してから丸一年経った。母親は失踪の状況から見て望みを無くして、娘の葬式を出すことを決心した。
閖雅:「…………」
閖雅:「(僕は絶対に信じない!)」
そんな中、那波の弟の閖雅(ゆりまさ)は客間で行われていた葬式を抜け出して姉の部屋に来た。
…ガチャ
一一カタン
彼は姉の机に行き、椅子を引いて座った。机の上でグッと拳を握りしめる。
閖雅:「…姉さん…僕は信じてる。貴女が何処かできっと生きているって事を」
そう呟くと身体を仰向けに反り返らせた。反り返らせていると懐かしい光景が脳裏に浮かぶ。
一一ぐらっ
閖雅:「うわぁっ!?」
…どっしーん
彼はその癖でいつも背中から椅子ごと倒れていた。衝撃と痛みで身体を横に転がして折る。音ともに彼女は現れる。
閖雅:「………っ」
「まーたやったわね?いつも言っているでしょ、危ないわって。大怪我する前にやめなさいよね」
自分が倒れると様子を見に来て姉のそんな声がいつも掛かる。
閖雅は身体を反り返らすことは姉がいなくなってからすることを止めた。
注意する人がいないのに、しても心が空しくなるだけだった。居なくなってからその存在の大きさを痛感する。
閖雅:「姉さん…僕にはやっぱり…貴女が居ないと…」
あの声が聞こえてこないとぽっかりと心に穴が空いているような心地がして、気持ち悪かった。
一一ぐらっ
閖雅:「うわぁっ!?」
…どっしーん
心の中で色々と考えていると、あの時のように後ろに反り返って倒れる。
痛みにふるえていると……
閖雅:「…ん?」
仰向けで倒れたので、机の下に何やら封筒が貼付けてあった。
今まで、姉の部屋に入ることはあっても、椅子に座って倒れるのは初めてだった。
カサッ
閖雅はその封筒に手を伸ばして破らないように剥がすと、表面に書かれた字を見て目を丸くしていた。
その文字は綺麗な字だった。彼はその封筒の後ろを見なくても誰が書いたのか直ぐに分かった。
閖雅:「これは…姉さんの字だ!」
『閖雅へ』
綺麗に封筒を開けると中には白い便箋(びんせん)と共に表が無地で裏が青いトランプが一枚入っていた。
一一ひらっ…
そのトランプが封筒の中からはらりと落ちた。彼はそれを拾い、椅子を起こして座った。
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