第四話 追憶と幕開け

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『楓ちゃぁあん!!!』 「ふにゃっ!」  キーンと耳鳴りが襲った。しかし、一日とはいえ無視し続けた酬いだ。私が悪い。 「あの……ご、ごめんね。その……つ、疲れてて」  必死に紡ぎだす言葉は酷くぎこちない。なにより、私の言葉をじっと待ち続ける姉さんは私が知っているいつもの姉さんではないから。  駅のホームにでもいたのか、携帯ごしにざわざわとした喧騒とアナウンスが聞こえてきた。  そんな騒がしい周りにこそ、かき消されることはなかったが、姉さんは私にしか聞こえないよう静かに、そして確かにこう言ったのだ。 「本当に? 女の子といっぱい"しちゃった"から疲れてるとか?」 「ち、違うよ。本当に……道に迷って……荷物の整理もできなくて」  携帯の向こうからくすくす、と笑い声が漏れる。様子は依然として戻らずにそうなんだぁ、などと平淡な口調。
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