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すると院長先生はゆっくりと瞼を閉じて、懐かしむように語り出した。
「あなたのお母さん。鳳園寺雛菊さんはね、わたしが受け持った生徒の一人なのよ。すごく優秀で……懐かしいわ……」
「……母も言ってました。鮮明には覚えていないけど懐かしいって」
院長先生は静かに首を横に振り、私の言葉を否定する。
「それはたぶん嘘だわ。覚えていないはずがないの。ただ、思い出したくないだけ」
「思い出したくない?」
その問い掛けに答えることはなく、院長先生はじっと口を噤んでしまった。
それから、静かに時間は流れ、
「とにかく、あなたはお母さんのためにも学校生活を楽しみなさいね。誰ひとりとして正体がバレないように……」
「……誠に申し上げにくいのですが……ば、バレましたのですよ……」
「え、えぇぇえ!」
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