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「ねえ、僕さ、空白メールって好きだよ。だって、真っ白なんだもの」
歌うように、彼は言う。
「件名も本文も書いてない、真っ白なメール。その白さといったら……あぁ、なんて綺麗なんだろう! あの時ほど僕は『空白』に、『白』に、惹かれた事はないよ」
うっとりと、恍惚の表情を浮かべる。
「『空白』っていいよね。空っぽで、真っ白で、誰にも踏み入らせない領域」
くすくす……と、小さく笑う。
「でもね、ある時僕は気付いたんだ。『空白』が、僕にも作れる事。
回した連絡網の、四角の枠に書かれた名前と連絡先。枠の中のものを塗り潰したらほら、空白が出来るでしょ?
だからね、全部消す事にしたんだよ。……って、聞いてないか」
そこで、彼の視線が、隣で倒れるシタイに向けられる。
彼の手にある銀から滴り落ちていく、赤。
シタイの下にも広がる、赤。
何があったのかは、一目瞭然。
「──── いたぞ! あそこだ!」
遠くも近くもない所から聞こえる声。
もうすぐだ。もうじき叶う、自分の夢。
ここまでの過程を彼は思い出す。
「全34名の空白が出来たよ。ありがとうね、僕の可愛い生徒達」
残っているのは、教師である自分の名前だけ。
これで、完全に空白だ。
恍惚感に満ちた表情で、楽しそうな声で、青年は笑いだす。
その声は、現場に銃声が響くまで、止まる事はなかった。
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