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朝になり、俺は能面の寝ているベッドの脇に突っ伏して寝ていることに気がついた。右手は彼女の手を握ったままだったので、ちよっと痺れている。
能面の顔から呼吸機が無くなっているのに気付き、首を傾げていると、昨日俺に話しかけてくれた中年の看護婦が病室に入ってきた。
「おはよう」
看護婦は笑顔で俺に挨拶してきて、俺は頭を下げて挨拶を返す。
「あの、こいつ…」
「まだ意識は戻ってないけど…、大丈夫。脳に異常はないし、近いうちに目を覚ますはずよ」
看護婦は優しく能面の黒い髪を撫で、そうつぶやくように言った。能面の腕の点滴を変えると俺に顔を見て、微笑んで言う。
「じゃあ、目を覚ましたら呼んでくださいね」
「あ…はい」
俺は頷き能面の寝顔を見つめた。
しばらくして、夜が明けて来た。
中途半端な時間に起きてしまったため、まだ眠い。
病室は太陽の光で明るく照らされ始める。能面の顔も、光に照らされた。
俺はカーテンを引いて当たる光を柔らかくする。
小さく欠伸をして、パイプ椅子に座り、能面の包帯が巻かれた顔を見つめた。
どれくらい見ていただろうか。能面の睫毛が揺れ、口元がぴくぴくと震えた。ゆっくりと瞼が持ち上がり、黒い瞳が病室の天井を数秒見つめていた。それから、俺に目を向ける。
「能面…」
俺は彼女の手を握りしめ、その手を自分の眉間に持って行った。
鼻の奥と、目頭が熱い。涙が溢れ、彼女の手を濡らした。
「よかった…」
震えた声で、俺は唸った。強く強く手を握りしめる。
能面は見たこともないようなほうけた表情で俺を見つめていた。身体を起き上がらせようとして、顔をしかめていた。
「…あたし、いったいどうしちゃったわけ…?」
呻くようにつぶやいた能面に少し笑い、俺は今までの経緯を説明すると、彼女は握られていない方の手で頭を押さえた。
「…うわ、覚えてない…」
「部分記憶喪失ってやつか?」
「…さあ?あ、でも…ダイ君のお墓参り…」
能面は申し訳なさそうに目を伏せた。俺は涙を拭い、首を振った。
「いいよ。そんなのいつでも行ける。おまえが生きていてくれただけで、今はそれでいい」
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