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とにかくだ、と坂木は手を洗いながらつぶやき、俺を睨むように見つめてきた。
「おまえがのんちゃんを幸せにしてやれよ!」
「はっ。言われなくても。…能面が、俺の告白にオーケーすればの話だけどな」
「大丈夫だってー」
坂木は軽口と俺の背中を叩く。
トイレから病室に戻ると、能面の親友や他のクラスメートたちが病室から出ているところだった。
「じゃ、俺も帰るわ」
坂木も手を軽く振りながら、能面の親友の隣にかけていく。俺は軽く手を挙げ、みんなを見送った。
病室に入ると、能面が右目だけで俺を見つめていた。左の顔は未だ包帯が幾重にも巻かれている。
「やっと静かになったな」
俺がおどけて言うと、能面はきごちない笑みでにぎやかかったからねえ、とつぶやいた。
「さてさて…静かになったら眠たくなってきちゃったなあ」
口に手をあて小さくあくびをする能面を見つめながら、俺は寝ていいぞ、と言った。
「いや、寝ないよー。君とのんびり会話がしたいからね」
能面は首を振ってそうつぶやき、お腹の上にある机から皿を持ち上げ、中に入っていた林檎をかじる。それから俺を見て、爪楊枝に刺さっている林檎を俺に向けて来た。
「食べるかい?」
「…食べかけを渡すか普通…」
俺が呆れて言うと、能面は小さく笑って皿ごと俺によこした。
「冗談冗談」
しばらく二人で林檎をかじり、たわいない話をした。外は暗くなり、時刻は午後6を過ぎていた。
「君、寮に帰らないでいいのかい?」
オレンジ色の病室の中で、能面は静かに俺に言った。俺はそうだな…、と口ごもり、彼女の包帯が巻かれた顔を見つめる。
「…ところで、あと2週間たつとゴールデンウイークだね」
「そだな。おまえの足はまだ折れたままだろうけどな」
「うんまあ…そうだね。…で、君はゴールデンウイーク暇かな?」
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