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「…あ?…ああ、今んとこは予定ないぞ」
俺が頷くと、そうかい、と能面はつぶやいて、軽く目を閉じた。
「…それならさ、今回行けなかったダイ君のお墓参りに行こうよ」
あたしも行きたかったからさ、と小さな声で付け加えて、目を開いて俺を見つめてくる。
「……」
俺はしばらく固まっていた。能面は俺を上目使いで見つめてくる。
「…迷惑、かな…?」
能面の弱々しい声が聞こえ、俺はぶんぶんと首を振った。
「や、迷惑なわけ…!まさかお前からそんな誘いがくるとは思ってなかったから。つーか…、そうなるとお前車椅子だろ?大変じゃないか?」
「そこは君がフォローしてくれるでしょう?」
意地悪そうに微笑んで能面は言って、無事な左手を出して来た。お前はその小さく白い手を優しく握ってやる。
「君は暖かいね。それともあたしが体温低すぎかな?」
「さあな」
「ゴールデンウイーク、それで決まりでいいかい?」
「…ああ。ダイもきっと喜ぶ」
俺は能面の小指に自分の小指を絡ませ、約束だ、とつぶやいた。
能面が退院して、車椅子で学校に復帰してから二週間立った日曜日、ゴールデンウイーク初日。
俺は能面の車椅子をひいて実家の町を歩いている。何も変わっていない町並みを、能面は楽しそうに見つめていた。
「なんだろう?いい思い出なんてなかったはずなのに…"帰ってきたなあ"って感じるよ」
能面はのんびりつぶやいて空を仰いだ。そのまま首を回して俺を見て、
「さあ、はやくダイ君に会いに行こうよ」
無邪気にせかす。
はいはい、と俺は頷いて寺を目指して車椅子を押しながら歩きだす。
…ある決意を胸に秘めて。
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