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俺たちはダイの墓がある寺に向かう途中、例の大通りに出た。
「……」
能面は軽く目を伏せ、両手を合わせる。
横断歩道の脇に立っている電柱に、花が供えられていた。
「…不思議な場所だよね…。こんなに見通しのいい直線道路なのに、交通事故が多い」
「…そうだな」
微妙な気分になりながら、俺は彼女の車椅子を押す。横断歩道は渡らず、ゆっくりと歩道を歩いていった。能面は重なって出来てしまった顔の傷を撫でながら、重々しいため息をついている。
「どした」
「いやあ…何でもないよ…」
それからしばらく、俺たちは無言になった。
やっぱり大通りを通るのは失敗だったかな、と俺は内心で反省する。
大通りを抜ける手前くらいで、沈黙していた能面は不意に横をむくと、俺に止まるよう言った。俺がどうした?と尋ねると、彼女は建物の陰に置いてあるダンボールを指差した。
俺はダンボールに近寄って蓋を開けた。そして、彼女に中身を渡す。
「にゃあ」
柔らかいそれは、グレーの子猫。能面の小さな手にちょこんと座って彼女を見つめていた。
「…可愛い」
「そだな」
能面は寂しそうに子猫を撫でた。子猫は甘えるように喉を鳴らしてすりついている。
「…飼ってあげたいけど…」
能面は目を伏せたまま言葉を濁す。だから俺は助け舟を出してやった。
「俺の実家で飼おうか」
「…本当に?」
「ああ。俺の両親動物好きだし、大丈夫だと思うぜ」
俺の言葉に、能面はやっと笑顔を取り戻してくれた。
寺に入り、俺たちはすぐさまペット用の墓のスペースに入った。
そこには、古ぼけた墓標が立っていて、その中に『ダイここに眠る』と書かれたものがちゃんとあった。
俺と能面は一本ずつ線香を手向け、黙祷を捧げた。
「能面」
黙祷を終えた俺は、彼女の肩に手を置いて、目線を合わせた。
「俺…いつからかはわからない。でも、結構前からお前が好きだったように思う」
「なんだいその曖昧さ。…でも、」
能面は呆れ声でつぶやくと、内心狼狽している俺の頬に両手を当てて。
「……っ…」
柔らかい唇を俺のに重ねてきた。
すぐにはなして、彼女はにっこり微笑み、つぶやく。
「奇遇だね、あたしも君のこと、好きなんだよ」
子猫が、能面の膝の上でにゃあ、と鳴いた。
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