誕生日ケーキ

2/6
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
「…はあ…」 教室に入ると、彼女はぼんやり顔でため息をついていた。   季節は夏。夏用ブラウスを第二ボタンまで外した姿で、開けっ広げた窓からそよぐ風に前髪を揺らしたまま、彼女はぼんやりを続行中だ。   わたしが近づいても彼女は気付かず、二つ重なった傷痕をなでている。そしてため息。   「のんちゃん、おはよ」   わたしの声に彼女はぴくりと肩を震わせ、こちらを向いた。目を丸くして、普段はあまり見せない驚き顔をしている。   「あ…なんだ、おはよう。びっくりしたなあ…。彼かと思った」   「彼じゃなくて残念でした」   彼女の言葉におどけて返すと、意地悪いなあとつぶやいた。   「…むしろ、今は彼にはあまり会いたくないかも…」   深刻そうにつぶやく彼女に、わたしは首を傾げた。   「喧嘩したの?」   喧嘩しているようには見えなかったが、とりあえず聞いてみる。すると彼女はとんでもない、と首を振り、小さくまたため息をついた。   「あのね、彼…そろそろ誕生日らしいんだよ」   「へえ、それで?」   わたしが促すと、彼女は軽く目を伏せてつぶやく。彼女の長い睫毛が風に揺られている。   「うん。それでね、『誕生日プレゼントは何がいいのかな?』って聞いたんだよ」   わたしは彼女の相変わらずな単刀直入さに呆れた。それが彼女のいいところでもあるのだが。   彼女は頬に両手を当てて「んー…」と唸っている。わたしはそれで?とまた続きを促した。   「うん、それでさ、彼『お前のくれるものならなんでもいい』って言ってたんだよねえ…」   「なるほど。のんちゃんは何をあげようが迷ってるわけね」   「ん…具体的に欲しいもの言ってほしかったけど、さすがにそれは言えなくて。やっぱりびっくりもさせたいしね」   聞いてしまったのだからびっくりも何もないんじゃないかと思ったけど、何も突っ込まなかった。   しかし本気で悩む彼女に、ああこの子は本当に彼が好きなんだなあ、とわたしはぼんやりと考える。ここでわたしは親友らしく、彼女を助けてあげようと意気込んだ。脳みそをフル回転させて、一つ思い付いたことを提案する。   「手づくりケーキってのはどうかな?」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!