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我ながら名案だ。手づくりのお菓子をプレゼントすれば、きっと彼も喜ぶにちがいない。大好きな彼女の心を込めた最高のプレゼントではないか。
わたしが1人考えに浸っていると、彼女はまたため息。
「…手づくり、ねえ…」
「ん?どしたの?」
わたしが思わず尋ねると、なんとも申し訳なさそうに彼女はつぶやいた。
「…あたし、料理苦手なんだよねえ…。興味ないというか、面倒というか…とにかく、人が食べられるものなんて作れないね」
彼女は力無くうなだれて、それ以外で、と唸るように言う。わたしはそんな彼女を見つめて、この子にも苦手なものなんてあるんだなあ、と考えた。本当に、オールマイティだと思っていたから。
彼が教室に入ってきたのを横目で確認しながら、わたしは彼女の肩をつかんで耳打ちした。
「今日、わたしの家にきなよ」
「んん…?」
彼女は軽く首を傾げ、でも頷いてくれた。
わたしはここで生まれてここで育った。学校からも近いから寮ではなく自宅通いだ。
今日の授業が終わったら、いちゃついている(端から見たらただのんきに喋っているだけだが)二人から彼女をさらって家に招待した。今思えば彼女を家に招待したのは初めてだ。
「お邪魔します」
「うん。誰もいないけどね」
わたしの両親は共働きで、父は公務員、母は料理教室の先生をしている。
「じゃ、今からケーキ作ろうか」
わたしはリビングで彼女をソファに座らせて、いきなり言った。彼女はポカンとしている。
「…え?」
しばらく固まっていた彼女は、まるで苦虫をかみつぶしたような表情で、わたしに聞き返す。
「…ケーキ、作るの…?」
それにわたしはすぐさま頷いた。彼女は軽く頭を押さえながら唸る。
「…それ以外でって、あたし言ったよね…?」
「のんちゃんが苦手ならわたしが手伝ってあげるから。ね?作ろうよ」
わたしが言うと、しばらく彼女はうー、とかでもなあ、とかつぶやいていたが、やがて諦めたように頷いてくれた。
「親友の君を信じて、作ってみようかな…」
「やったね。大丈夫、わたしお菓子作り得意だから。いろいろ教えてあげるね」
「はいはい。よろしくおねがいします、先生」
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