誕生日ケーキ

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スポンジの上にクリームを塗り、切ったフルーツを丁寧に乗せていく。彼女は真剣な面持ちで至極慎重にトッピングしていた。   この作業を3回繰り返し、やっとケーキの形になってきた。わたしはその形になってきたものにクリームを塗るために台に乗せる。この台は下が回るのでクリームが塗りやすい。   ろくろみたいだね、と彼女が神妙な顔で言った。   ヘラにクリームを乗せ、台を回しながらスポンジとフルーツのサンドに丁寧に塗っていく。彼女は興味津々といった感じでムラなく塗られたクリームを見つめていた。   真っ白なホールを皿に移し、クリームとイチゴをトッピングすれば、ショートケーキの完成だ。   「わあ…すごいねえ…。お店で売ってそうだよ」   小さめのショートケーキを見つめて、彼女は目を輝かせている。わたしは箱を取り出して、それに詰めた。蝋燭も数本入れておいた。   彼女はわたしがラッピングしているのをまたも興味津々に見つめ、器用だねえ、とつぶやいた。   「はい、誕生日ケーキのできあがりー」   わたしはおどけて言って、彼女にラッピングされた箱を渡した。彼女は嬉しそうにそれを受け取る。   「ありがとう。いやあ、助かったよ」   「どういたしまして。のんちゃんの力になれたんなら嬉しいかぎりです」   「まあ、あたしはクリーム混ぜただけだけどねえ…。…彼、喜んでくれるかな…」   彼女は軽く目を伏せてつぶやく。わたしは彼女の細い肩に手を置いて力強く言ってみせた。   「のんちゃんが心を込めたんだから、きっと喜んでくれるよ!更に惚れ込んじゃうかもねー」   「そうかな…。だったらいいな」   照れ臭そうに笑った彼女は、とても可愛い、そう思った。       そして彼の誕生日、彼女が彼の襟首を掴んでどこかに連行していくのをわたしは見つけた。彼女の手にはケーキが入った紙袋があり、今から渡すらしい。連れていき方に少々問題がある気がするが、まあ彼女らしいのでよしとしよう。 そして―――
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