誕生日ケーキ

6/6
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
そして、これはわたしが彼女を見た直後の、わたしが知らない"二人"の話。 それは突然のことだった。       今日は俺の誕生日だったが、いつも通り授業を受けていつも通り友人と過ごした。彼女も別に何も言ってこないので、少し寂しかったが。   あっという間に放課後になり、俺はさて帰ろうと立ち上がろうとしたとき、後ろから誰かに物凄い力で襟首を掴まれた。   俺は驚いて首を回して後ろを見た。   そこには彼女がいて、俺と目が合った瞬間椅子ごと引き倒されて引っ張られた。椅子が物凄い音で倒れ、みんなが俺達を見る。かなり恥ずかしいんだが。   「お、おいなんだよ」   俺は非難の声を上げるが、彼女はそしらぬ顔で襟首を引っ張って教室から出た。俺はたたらを踏みながらなんとか付いていく。   そういえば彼女はこの細腕のわりに、結構力が強かったな、なんてぼんやり考えていると、階段をのぼろうとしたので慌てて手をはなさせた。   「なんだよ?」   「いいから」   有無を言せない無表情の声。なんだか懐かしい。   俺はしかたなく彼女の隣を歩いた。階段を上がり、屋上に出た。   彼女は屋上に出るなり稀に見る(最近では本当に稀なのだ)無表情で俺を見つめて来た。   「なんだよ?俺なんかおまえを怒らせたか?」   「いいや」   彼女は無表情のまま首を振り、そこでやっと表情を崩した。   「どんな顔して渡したらいいかわからなかったんだよねえ…」   「…だからって無表情はないだろう」   俺は呆れてつぶやき、それから尋ねる。   「…渡すって?」   すると彼女は左手に持っていた紙袋を俺に突き出した。ピンクの柔らかい紙でできた袋の口には白い紐がついている。   「…これは?」   「誕生日、おめでとう。あたしからの気持ちです」   彼女は少しはにかんで、小さな声で言った。なんだか彼女らしくなくて、でもそれが可愛かった。   「ありがとう」   「ええと、中身はケーキで、あたし料理苦手だから…友達に手伝ってもらったからまずくはないと思うけど…」   しどろもどろにつぶやく彼女の頭をがしがし撫で付け、俺は早速袋を開けてみた。中には小さなショートケーキが入っている。   「うまそうだな。ご丁寧にフォークも二つ入ってるし、食べるとするか」   俺は地べたに座って彼女にも座るよう促した。彼女は嬉しそうに俺の隣に座る。   二人で一つのケーキをつついた。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!