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そして、これはわたしが彼女を見た直後の、わたしが知らない"二人"の話。
それは突然のことだった。
今日は俺の誕生日だったが、いつも通り授業を受けていつも通り友人と過ごした。彼女も別に何も言ってこないので、少し寂しかったが。
あっという間に放課後になり、俺はさて帰ろうと立ち上がろうとしたとき、後ろから誰かに物凄い力で襟首を掴まれた。
俺は驚いて首を回して後ろを見た。
そこには彼女がいて、俺と目が合った瞬間椅子ごと引き倒されて引っ張られた。椅子が物凄い音で倒れ、みんなが俺達を見る。かなり恥ずかしいんだが。
「お、おいなんだよ」
俺は非難の声を上げるが、彼女はそしらぬ顔で襟首を引っ張って教室から出た。俺はたたらを踏みながらなんとか付いていく。
そういえば彼女はこの細腕のわりに、結構力が強かったな、なんてぼんやり考えていると、階段をのぼろうとしたので慌てて手をはなさせた。
「なんだよ?」
「いいから」
有無を言せない無表情の声。なんだか懐かしい。
俺はしかたなく彼女の隣を歩いた。階段を上がり、屋上に出た。
彼女は屋上に出るなり稀に見る(最近では本当に稀なのだ)無表情で俺を見つめて来た。
「なんだよ?俺なんかおまえを怒らせたか?」
「いいや」
彼女は無表情のまま首を振り、そこでやっと表情を崩した。
「どんな顔して渡したらいいかわからなかったんだよねえ…」
「…だからって無表情はないだろう」
俺は呆れてつぶやき、それから尋ねる。
「…渡すって?」
すると彼女は左手に持っていた紙袋を俺に突き出した。ピンクの柔らかい紙でできた袋の口には白い紐がついている。
「…これは?」
「誕生日、おめでとう。あたしからの気持ちです」
彼女は少しはにかんで、小さな声で言った。なんだか彼女らしくなくて、でもそれが可愛かった。
「ありがとう」
「ええと、中身はケーキで、あたし料理苦手だから…友達に手伝ってもらったからまずくはないと思うけど…」
しどろもどろにつぶやく彼女の頭をがしがし撫で付け、俺は早速袋を開けてみた。中には小さなショートケーキが入っている。
「うまそうだな。ご丁寧にフォークも二つ入ってるし、食べるとするか」
俺は地べたに座って彼女にも座るよう促した。彼女は嬉しそうに俺の隣に座る。
二人で一つのケーキをつついた。
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