18人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
「本当に有難うございました」
私は深々と頭を下げる。
今度こそ、二人とは本当にさようならだ。
堪えていた涙が頬を伝うが、私は笑顔で顔を上げる。
「ご来店有難うございました」
二人はとても綺麗なお辞儀で、店を出る私達を見送ってくれた。
店を出てからも、私は何度も振り返る。
そんな私に、二人は優しい笑顔を向けてくれていた。
「あっ」
そして何度目だろうか、振り返った私の目の前から、店も二人も消えてしまっていた。
そう、まるで最初から何も無かったのように。
「消えちゃったね」
私が立ち止まったので和也も歩みを止め、店があった場所を見つめている。
「うん」
「ほんと不思議な店だったね」
「うん」
「でも来れて良かった」
「うん……でも、何だか夢を見てたみたいな感じ」
あっという間の素敵な時間。
もしかしたら、もうすぐ私は夢から目を覚ますのではないか、そんな風にさえ思ってしまう。
「夢じゃないよ」
そんな私の手を握り、和也は微笑む。
綺麗だなんて言ったら和也は怒るかもしれないが、微笑む和也が本当に綺麗だと思った。
「だってこんなに暖かいんだから、夢な訳ないさ」
そう言って、和也は私の手を握る手に力を入れる。
最初のコメントを投稿しよう!