序章‐2月某日

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ちらりと見た腕時計が、日付が変わったことを教えてくれた。 皆この時間を1日を終える区切りにするのだろうか。 帰り支度をし、カウンターに向かってきたのは、馴染みの顔だった。彼はこの時間からスナックへ行き、お気に入りの子が上がる時間まで待つのがこの冬からの週末のスケジュールになっているらしい。 勿論、彼曰わく彼女とは最高の相性らしいのだが、他の客からの噂を聞く限りでは、「聞いてよマスター…」と、彼からお決まりの愚痴と失恋談を聞かされるのはそう遠い話ではなさそうだが… 会計を済ませ、今にも羽根が生えて飛んでいきそうな彼を見送り、再びカウンターから店内を見回す。 キャンドルが照らす薄暗い店の中では、皆それぞれが1日の終わり時間を過ごし、ある者は隣に座る恋人に微笑みながら、その肩にそっと体重を預ける。満ち足りたお互いの表情からも、良い酒であったことが伺える。 俺はといえば、ドアの前に誰かの気配を感じる度に、客に気づかれない程度に姿勢を正す。 ドアが開く度、期待せずには居られなくなる。まるで遠足の前日の子供のように、待ち遠しいという感情を楽しんでいる。 そう。楽しんでいる。 誰にも気づかれないように。 自分すらも欺いて。
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