120人が本棚に入れています
本棚に追加
此処は牢なのだろう。
手枷こそ無いが、心拍測定器とGPS搭載の腕輪が右手首にがっちりとはめられている。
どこに逃げたって、誰かが僕を必ず見つけ出し此処へと連れ戻すだろう。
それ以前に、僕の脆弱な肉体はこの部屋の外には一歩も踏み出す事ができない。
だから立派な錠前の付いた鉄扉なんて、必要ないんだ。
永遠に、命が尽きるまでこの真っ白な病室に閉じ込められる。
怖い看守も、弁護士も、法律も、十三階段も。ここには関係がない。
有るのは清潔な消毒液の匂いと、簡素なパイプベットと、日々業務を淡々とこなす医者と看護婦。
それだけ、それだけだ。
規則正しい時間に、食事を摂取させられる。
粘り気のある灰色のスープを流し込むだけの機械的な食事。
丸や、楕円や、顆粒や、液体や、カプセル。様々な薬を時間をかけて嚥下する。
今の僕にとっては、固形物を飲み込むのも重労働だ。
点滴、注射、たまに呼吸器。いろいろな針が管が、体に繋がれる。
目が疲れるので、本もあまり読まなくなった。
ベットの脇には窓が有るが、見えるのは隣に立つ高層ビルのコンクリート塀だけなので直に飽きてしまった。
一日の大半、とろりとろりとした浅い眠りの中を漂っている。
此処は牢なのだろう。
何も無い、抜け出すことの出来ない場所。
最初のコメントを投稿しよう!