ダブルバインド

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此処は牢なのだろう。 手枷こそ無いが、心拍測定器とGPS搭載の腕輪が右手首にがっちりとはめられている。 どこに逃げたって、誰かが僕を必ず見つけ出し此処へと連れ戻すだろう。 それ以前に、僕の脆弱な肉体はこの部屋の外には一歩も踏み出す事ができない。 だから立派な錠前の付いた鉄扉なんて、必要ないんだ。 永遠に、命が尽きるまでこの真っ白な病室に閉じ込められる。 怖い看守も、弁護士も、法律も、十三階段も。ここには関係がない。 有るのは清潔な消毒液の匂いと、簡素なパイプベットと、日々業務を淡々とこなす医者と看護婦。 それだけ、それだけだ。 規則正しい時間に、食事を摂取させられる。 粘り気のある灰色のスープを流し込むだけの機械的な食事。 丸や、楕円や、顆粒や、液体や、カプセル。様々な薬を時間をかけて嚥下する。 今の僕にとっては、固形物を飲み込むのも重労働だ。 点滴、注射、たまに呼吸器。いろいろな針が管が、体に繋がれる。 目が疲れるので、本もあまり読まなくなった。 ベットの脇には窓が有るが、見えるのは隣に立つ高層ビルのコンクリート塀だけなので直に飽きてしまった。 一日の大半、とろりとろりとした浅い眠りの中を漂っている。 此処は牢なのだろう。 何も無い、抜け出すことの出来ない場所。
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