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ぼんやりと、僕は前にこの病室にいたという患者について考える。
女、僕と同い年くらいの少女だったそうだ。
どんな人だったのだろうか。
恐らく、このベットに寝ていたのだろう。
ならば、贅沢な意見だろうが美人が良い。
病んでいるのだから、恐ろしく脆弱な薄い体をしている。
長い髪で、常に微熱っぽいお陰で大きな瞳は潤んでいる。
勝手に想像しながら、僕はなんだか久々に楽しくなってきた。
だが、意識が高揚するまえにぐらりと世界が歪む。
暴力的なまでの、眠気。薬が効いてきた。
遠くで、ポツポツと水滴の音がする。
ああ、雨なのだろう。窓を雨粒が叩く音なのだろう。
確認しようと思ったのに、目蓋は重く開いてくれない。
遠ざかる意識の中で、僕は過去にきっと窓の外を見つめていただろう『彼女』を空想する。
退屈な病室の中。
静かに濡れる、窓の外の灰色世界。
それを見つめる、女性。
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