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「ハタさん、開けたワインがまだ残ってます」
「ああ、かまわない。明日きたお客さんにグラスワインで出せばいい。なあ、ヤギ」
「はい。窒素ガスをつめて、きっちりと封をすれば大丈夫でございますよ、美しいお嬢さま」
ヤギさんはそう言ってから、席を立って、
「グラスもお取り替いたします」
そう言って、ワインのまだ残っているボトルとデキャンタと、三つの空になったワイングラスを器用に持って、スタッフルームのドアへと入っていった―
「ヤギはあれでも昔は結構、モテたらしいよ」
ああ、わかる気がする。
「はい。ヤギさんは背も高いですし、話し方も丁寧です。こう言っては失礼かもしれませんけど、若いころは今以上に素敵だったんでしょうね」
ヤギさんは背が高く、細身のおじいさんだけど、老人などと間違っても呼んではいけない気品がある。
仮に手袋をはめて、頭を頭巾か何かでスッポリと顔までおおって、露出している肌を見せなくして、そのまま五、六歩ほど歩いてもらい、それを人に見せて、この人は、いくつくらいの人でしょうか?と訊いたら、ほとんどの人、いいえ、十人中十人が三十才から四十才代と答えるかも、五十才以上と答える人はきっといないだろう。
「とても八十に近いふうには見えないだろう」
「はい。背筋も真っ直ぐで、足取りもしっかりとして、とてもお若いですね」
「でも、ああ見えて以外とガンコだったりするんだよ」
「そうなんですか?そんなふうに見えませんけど…」
「ヤギは…、ほら、隠すタイプだから、僕と違って…」
「え、かくす? なにをですか?」
「だからさ、世の中には二種類しかいないだろう」
世の中?二種類?
ハタさんは何を言いたいのか、まったくわからない。
「だから、助平がさ、だいたいみんなスケベなくせして、それを私は違いますって、隠す人と、私はスケベですって、言う人とさ」
ああ、そういうことか、しかし、そんなことを真面目な顔で言うハタさんもハタさんだ。
「じゃあ、ハタさんはそういったことを隠さないんですね?」
「うん、でも、あからさまに、させてください。なんて言わないよ、僕は」
ハタさんはそう言うと、またあの笑顔になった。
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