愛と正義 下

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どこをどう逃げたのか、俺はなんとか主人公たちを撒くことに成功した。 「よし、今だ」 路地裏に潜り込み、身を隠す。 すぐに変身を解き、『星影 巽』に戻る。 ベルトは変身を解くと同時に、そこらで拾った鞄の中に詰め込んだ。 もう、大丈夫だ。 この状況で見つかっても、ただ避難に遅れた一般市民を演じればいい。 安心すると、腰が抜け、その場にへたり込んだ。 怒涛の一日だった。 菫と出会い。 一度死んで、改造されて魔族にされた。 極めつけが、憧れの魔法少女キララに殺されかけた。 続く、生死をかけた逃走劇。 「…菫」 そうだ。菫は大丈夫だろうか。 菫は今日この町に来たばかりで、道に詳しくない。 まだ近くにいて、迷子になっていたら…。 「探しに行くか」 路地裏から出ると、すぐに探し物は見つかった。 ポカンと口を開け、俺を見つめる菫が立っていた。 「巽…さん?」 信じられないと、顔に書いてある。 幻覚ではないか確かめるように、俺に歩み寄る。 「よぅ、菫。大丈夫だった…」 「巽さん、巽さん!」 言い終える前に、少女は、俺に飛びついてきた。 「ごふっ!」 見事なタックルに俺は押し倒される。 「けほっ、けほっ、何しやがるんだ!」 「良かった。死んでない。生きてて、良かった」 俺の上に乗っかったまま、泣き顔と笑顔をごちゃ混ぜにする菫。 そうか、菫はもっと心配だったのだ。 そしてだな。どうやら当初から予定していた台詞を言うタイミングのようだ。 「すまん、もう大丈夫だ」 優しく頭を撫でてやる。 やれやれ、たった一言伝えるだけで、えらく苦労したな。 「家に帰ろうか」 「はい」 問題は山積みだが、今は、今だけは。 「ほら、巽さん。立たせてあげます。捕まって下さい」 立ち上がり、手を差し伸べる菫。 「転ばせた本人がよく言う」 「細かい事は抜きでお願いします」 少女の笑顔のためだけに、忘れてもいいだろう。 俺は菫の手を取り、前向きに考えることにした。
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