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その声は紛れも無く手紙の差出人。
───壬だった。
「み、みずのえぇ!!」
「おーひのえ。良かったなぁ俺が早く来てよ」
半年ぶりにみる彼は少し大人びていて──大人の色気とでもいうのだろうか──少し色っぽかった。
「っつーことで、俺はひのえに話があっから、悪いけど席外して貰える?
御得意様の言う事は聞くモンだぜぇ?桜嵐ちゃん」
片手に煙管を弄ばせながら壬は威圧をかけて桜嵐に言う。
彼は渋々丙の上から退き、部屋から出ていく。
数秒の沈黙の後、壬は丙の傍らに腰を下ろした。
「半年ぶりだな、ひのえ」
未だ寝転がったままの丙に壬は軽く微笑みかける。
左手で弄ぶ煙管を口元に持っていき、一回吸って、吐き出す。
そんな単純な動作を目で追う丙は、ぽつりと呟いた。
「左……」
「は?」
「みずのえ、左利きだったのか……」
思えば、彼はずっと左利きだった。
箸を持つ時も、稽古をつけてもらう時の刀の持ち手も、みんな。
「───あぁ。
そうそう。俺、左利きだぜ?」
丙は未だ寝転がっているため、自然と壬は丙を見下ろす形になる。
窓から入り込む夕日に照らされた壬の髪は、きらきらと優しい赤色に染まっていた。
「………それで?」
暫くそうして他愛ない会話を交わし、丙はふと思い出したように尋ねる。
いきなりの問いに勿論壬は訳が分からずにぽかんと丙を見つめ返した。
「ここに呼んだ理由!
───何か、あったのか?」
起き上がった彼に壬は漸く思い出したようで「あぁ。」と呟くと、懐から真っ白な封筒を取り出し、彼に差し出す。
「……これは?」
受け取るも、中身を知らない丙はただそれを見つめる。そんな彼に笑みを零しながら壬は煙管で彼を指差した。
「俺の本職は忍。副業は何だったっけか?」
「副業……?
───あ、そうか…!!」
彼の副業は情報屋。
ならばこの中身は情報、ということになる。
自分を心配して情報を持って来てくれたのだろうか。丙は顔を上げ、彼を見る。
「ちょっと気になる事件でな。
俺も知りたいから調べた。そしたらお前が求めていたモノだった。
……それだけだ」
照れ臭そうにそっぽを向く壬に思わず笑いながら、彼は礼を言う。
そして、恐る恐る開いたそれに書かれていたのは、恐ろしくも哀しい事件であった───。
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