はなはだ灰かぶり

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 踊りに興じていた者達は、演奏していた者達は、視線を男に注ぐ。  男は、それに微笑んで、ダンスホールの中央で足を止めた。 「あらら? 遅刻は、さすがに不味かったのかなあ?」  とぼける様に、男は頭を掻いてから、ダンスホールに響く程の声で言った。 「皆さん。お気になさらずに。どうぞ、踊りを続けてください」  ――と。  そう言われても、気にしない訳にはいかない。  彼こそが、この舞踏会の主催者であり、何を隠そう――王子だった。  灰かぶりは、首を傾げる。  一体全体、何が起こったというのだろうか?  彼女はそう思いながら、騒めきの中心をのぞいた。 「……誰だ?」  茶髪の男が、何人かを引き連れて立っている。  これだけ注目を集めているのだから、さぞかし偉い階級なのだろう。 「ああ。そう言えば、あの魔法使いが何か言ってたな」  確か……舞踏会の目玉は王子だとか。何とか。 「……王子様が、遅刻かよ」  苦笑しながら、彼女は呟く。  灰かぶりが王子に抱いた印象は、決してよい物ではなかった。  世間知らずの彼女の評価は、王子だろうが公平である。 「まあ、不釣り合いだな」  灰かぶりがそう呟く頃には、ダンスホールは再び音楽に包まれてた。  皆、踊りを再開している。 「よくも、まあ。飽きないよな」  くるくる回ったりして、何が楽しいのだろうか? 「それを言うなら、君も見ているばかりじゃ飽きないかい?」  灰かぶりの隣に、いつの間にか男が立っていた。  茶色い髪の男――である。 「なっ……? なな、な!」  反射的に身構える灰かぶり。  それに対して、男は微笑んだ。 「面白いねえ。何も、そこまで驚く事ではないと思うよ?」 「えと、その。王子……様?」 「堅くならない、ならない。適当に、王子とか玉子とか呼んでくれて構わないよ」 「そう……かな?」  当然、灰かぶりに王子と対面した時の正しい対応などわかるはずもない。  礼儀正しい反応など、できるはずがない。 「王子が、私に何かご用で?」 「人と話すのに、いちいち用はいらないだろう。違うかな?」  灰かぶりは、失笑した。  言葉と言うより、人柄に。  王子ともあろうものが、数時間前まで床を雑巾で拭いていた自分に、馴れ馴れしく話すとは。  あまりに滑稽だ。
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