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灰かぶりは、素直に思った。
「何で、私なん……ですか?」
話し相手など、他にも沢山いるだろう。
「それは、君が一番、楽しそうにしていなかったからだ」
「はい?」
「人の楽しみは邪魔をしてはいけないからねえ。君は、邪魔されてもいいぐらい暇そうだった」
「…………」
不幸せの次は、暇そうか。魔法使いといい王子といい、勝手な事を言ってくれる。
「君が、そういう風にしている訳を、ぜひとも聞きたいって言うのもあるかな。少し、話すのもいいだろう?」
「まあ、悪くない……です」
さすがに、理由もなしに断る訳にはいかない。
灰かぶりは、ぎこちなく頷いた。
「そうと決まれば、ダンスホールの外で待っていてくれ。これから、ちょっとばかり政治的な話をして来なきゃいけないんだよ」
「はあ」
もう一度、灰かぶりは頷く。
「あはは。じゃあ、後で」
言って、王子は早足で彼女の視界から消えて行った。
「…………」
灰かぶりは、しばし沈黙する。
あれが、王子だと?
王族の性格など灰かぶりの知る所ではないが、それでも、違和感を覚える。
「今日は、どうなってんだ?」
灰かぶりは堪らず、ため息をついた。
夜風が涼しい時間帯、灰かぶりは空を見上げていた。
城内の天井を見上げるよりは、見慣れた星空の方が落ち着く。
「遅いよな」
王子は、まだ来ない。
よく遅刻する王子である。
まさか、あんなに砕けた人柄だったとは、灰かぶりでさえ驚いた。
「いやあ。遅くなっちゃったよ。怒られたら、どうしよう」
――と、慌てた様子で、ダンスホールから男が飛び出して来る。
「遅かったな……ですね」
「無理に丁寧に言わなくてもいいよ。僕も遅刻してる立場だ」
「……じゃあ、もう地で話すよ」
「堅苦しいより、その方がいい」
ようやく解放された様に言う灰かぶりに、王子は首肯した。
「えーっと、確かまだ名前は聞いてなかったねえ。君、名前は?」
その言葉に、灰かぶりは息を飲んだ。
まさか、王子に名を聞かれるなどとは予測していない。
灰かぶりは、真っ当な名前などないままに、舞踏会へとやって来たのだ。
「名前か……。聞いて驚いても、私は知らないぞ」
言って、小さな声で彼女は名告る。
「灰かぶり」
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