はなはだ灰かぶり

4/8
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 灰かぶりは、素直に思った。 「何で、私なん……ですか?」  話し相手など、他にも沢山いるだろう。 「それは、君が一番、楽しそうにしていなかったからだ」 「はい?」 「人の楽しみは邪魔をしてはいけないからねえ。君は、邪魔されてもいいぐらい暇そうだった」 「…………」  不幸せの次は、暇そうか。魔法使いといい王子といい、勝手な事を言ってくれる。 「君が、そういう風にしている訳を、ぜひとも聞きたいって言うのもあるかな。少し、話すのもいいだろう?」 「まあ、悪くない……です」  さすがに、理由もなしに断る訳にはいかない。  灰かぶりは、ぎこちなく頷いた。 「そうと決まれば、ダンスホールの外で待っていてくれ。これから、ちょっとばかり政治的な話をして来なきゃいけないんだよ」 「はあ」  もう一度、灰かぶりは頷く。 「あはは。じゃあ、後で」  言って、王子は早足で彼女の視界から消えて行った。 「…………」  灰かぶりは、しばし沈黙する。  あれが、王子だと?  王族の性格など灰かぶりの知る所ではないが、それでも、違和感を覚える。 「今日は、どうなってんだ?」  灰かぶりは堪らず、ため息をついた。  夜風が涼しい時間帯、灰かぶりは空を見上げていた。  城内の天井を見上げるよりは、見慣れた星空の方が落ち着く。 「遅いよな」  王子は、まだ来ない。  よく遅刻する王子である。  まさか、あんなに砕けた人柄だったとは、灰かぶりでさえ驚いた。 「いやあ。遅くなっちゃったよ。怒られたら、どうしよう」  ――と、慌てた様子で、ダンスホールから男が飛び出して来る。 「遅かったな……ですね」 「無理に丁寧に言わなくてもいいよ。僕も遅刻してる立場だ」 「……じゃあ、もう地で話すよ」 「堅苦しいより、その方がいい」  ようやく解放された様に言う灰かぶりに、王子は首肯した。 「えーっと、確かまだ名前は聞いてなかったねえ。君、名前は?」  その言葉に、灰かぶりは息を飲んだ。  まさか、王子に名を聞かれるなどとは予測していない。  灰かぶりは、真っ当な名前などないままに、舞踏会へとやって来たのだ。 「名前か……。聞いて驚いても、私は知らないぞ」  言って、小さな声で彼女は名告る。 「灰かぶり」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!