はなはだ灰かぶり

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 それに、灰かぶりは静かに首を横に振った。 「私には、今でも幸せと言う奴がわからない」  彼女には、わからない。 「人が折角、無期限に魔法をかけてやったのに。今よりは、よかっただろ?」 「ああ。だから、成り行きだ。つい帰って来ちまった」  彼女にもわからないが、それは恐らく怒りなのか。  魔法でドレスを纏うなど、そもそも彼女の望む事ではない。  青年のやり方に、腹が立った。 「こんな動きにくい服なんていらねえよ。そう文句を言いに来た」  灰かぶりは、堂々と言った。 「はは。何で、上手くいかなかったんだろ? あの場で魔法を解くべきだったか? いや、そもそも俺の実力がお前には不釣り合いだったのか?」  青年は、力なく地面に座り込む。 「俺も駄目だな。魔法なんて習得して、結果がこれだ。小娘一人、幸せにできない」  投げ出す様に、吐き出す様に、青年は灰かぶりに向かって言った。 「おこがましかったよ。お前を無意味に振り回しちまった。俺の道楽につき合わせて悪かったな」  青年は言って、頭を下げる。 「……馬鹿か」 「は?」  顔を上げた青年の顔面に、灰かぶりの拳が飛んだ。  手加減はされているらしく、青年は悲鳴を上げただけだった。 「……何しやがんだよ」 「人の話を聞けってんだ。魔法で私を幸せにできない? 魔法ばっかに頼ってんじゃねえよ。あんた、最初になんて言った?」 「は? お前、何を言ってんだ?」  目を白黒させる青年に向かって、灰かぶりは白い歯を見せて笑った。  何かを企てている様に。 「『お前を俺が、きっちり幸せにしてやるから、俺を楽しませろ』だ。私は、約束を守らない奴は嫌いだぜ」  そう言って灰かぶりは、魔法使いの青年に白い手を差し延べた。  遠い昔か、それとも現代か。  近い未来か、それらを超越した世界なのか。  そんな事は、気にかけるべきではない――何も変わりはしないから。  魔法使いと灰かぶりが、後にどうなったのかは誰も知らない。  ただ、あの鐘の音色の中で、灰かぶりは王子の言葉をはっきりと聞いたとか―― 「つまり、君の幸せを願う人間が、少なくとも一人はいると言う事だ」
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