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「随分な外法だな。これが魔法って奴ならば」
遠い昔か、それとも現代か。
近い未来か、それらを超越した世界なのか。
そんな事は、気にかけるべきではない――何も変わりはしないから。
「まやかしの癖に……」
小さく呟く声は、流れる音楽に掻き消された。
聞くものを奮わせる音楽は、やがて静かに穏やかに変わる。
オーケストラが奏でる音楽。
単純明解に説明してしまえば、ここは城のダンスホール。
百人近い人間がゆうに踊れる広さと、見上げる天井の高さには圧巻される。
どんなに踏み台を用意しようとも、まるで手の届きそうもない天井からは、これも圧倒されるような弩級の大きさのシャンデリア。
壁や床からさえ、立っているだけで気品を肌で感じる事ができる。
――さて、忘れてはいけない。ここはダンスホール。
当然、踊る為の場所だ。
移り変わる音楽に耳を傾け、身を投じながら、人々は踊りに興じていた。
演奏者なども含めれば、目算百人は越えているだろう。
にぎやかに、優雅に――たった一人の小さな呟きなど、掻き消してしまうほどに。
それでも、それは呟く。
自分に言い聞かせるように。
「不釣り合いにも、ほどがある」
続ける。
何かを保つために。
「こんなの、ただの騙しじゃないか。ただの偽りじゃないか」
最後の言葉――さえ、誰かの耳に届く事はなかった。
豪華な意匠を身に纏い、ひどく失望したような口調。
肌は透き通ると表現していいほどに白く、艶やかな髪は宝石を散りばめたカチューシャで止められていた。
その端麗な容姿とは、ひどく不釣り合いなため息をついて、入口で立ち尽くしていた彼女は歩き出した。
名前と言える名前など、彼女自身も忘れてしまったが。
彼女の呼び名は――灰かぶり。
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