まみれた魔法使い

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 そもそも、事の始まりは何だったか?  彼女は、ぼんやりと考える。  それは、恐らく彼女の母が死んだ時からだったのだろうが、そこまで遡っても仕方がない。  彼女自身、鮮明には覚えていない出来事だ。  ならば、まだ鮮明に覚えている事を思い出す。  今、自分がここにいる理由を。  彼女の日常は、恐ろしく変化のない単純な繰り返しだった。  早朝に起床し、義理の母と姉二人の朝食の準備する。昼になれば昼食。夕方には夕食。他には、掃除、洗濯、必要があれば買い出し――と、家事の一切を毎日のようにこなす。  ただただ、それに追われていた。  それが、日常になっていた。 「はあ……」  ――と、小さく息を切らして、額の汗を服の袖で拭う。  正直、それを服と表現していいのかは、さだかではない。  ぼろ切れと言った方が正しいような。  汗を拭えば、逆に汚れてしまいそうなほどに黒ずんでいた。  服だけではない。  腰まで届く長い金髪は、汚れて色がかすみ、竹箒のように四方に広がっていた。  手も足も顔も、どこを取っても綺麗とは形容できない。  『灰かぶり』  名前と言えるような真っ当な呼び名が存在しない彼女の事は、そう呼ぶしかない。  真っ当な名前は、忘れられてしまったから……。 「さて、次は洗濯か」  言って、彼女は雑巾片手に立ち上がった。これから特別な何かが起こるにしろ、彼女の行動は普段と変わらない。  いつも日課とも言える掃除を終え、そうしてから額の汗を拭ったのである。 「鬼の居ぬ間に洗濯か」  この場合は、まるで意味が違ってしまうけれど。  彼女は自虐を込めて笑った。 「本来の意味なんか、私には不釣り合いと言う事か……なるほど」  言いながら、雑巾を片付け洗濯の準備に取り掛かる。  もう、日は暮れ始めている――が、夕食の準備をする必要はない。  義母と義姉は三人とも、明日の明け方まで帰って来ない。  確か、城の舞踏会にでも行くと言っていたか?  灰かぶりは、義母と義姉の言葉を思い出す。 「城の舞踏会ねえ……」  城など遠目で見た事しかない彼女には、想像もつかない事だった。  しかし、つかなければどうなるものでもない。  自分には関係がないし、興味もない。  第一、舞踏会という言葉すら今日知ったのだ。  彼女は思って、それ以上は考えなかった。  否。中断させられた。
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