まみれた魔法使い

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 灰かぶりが暖炉の前を横切ろうとした時、景気のいい轟音を立てながら、何かが降って来たのだ。  暖炉の煙突を通じて――である。 「はい?」  彼女は、驚いて首を傾げる。  舞い上がる灰で視界を遮られ、何が降って来たのか。なぜ煙突から何かが降って来たのか――そもそも何かが降って来た事実すら理解できないまま、気が抜けた様に言った。  呆気に取られているうちに灰が床に落ち、視界が晴れる。 「げっほ! くそ、灰が気管支に……げぼっほ!」  咳込みながら、暖炉からはい出で来たそれ。  黒いフードつきのマントを羽織った、見るからに怪しげな青年だった。 「ああ?」  灰かぶりは目を丸くする。 「げほっ! 足が滑った時は駄目かと思った。生きてる事に感謝だな」  青年は灰かぶりに目もくれず、そんな事を言ってマントから灰を払った。 「……って。だ、誰だ、あんたは! 白昼堂々、泥棒とはいい度胸だな」  我に帰り、灰かぶりは身構える。  目の前の不審者がだれであったにしろ、悪さができないよう痛めつけておいた方がいい。  彼女は、そう判断した。  別に、丹念に磨いた床を灰まみれにされた復讐とかではなくて。 「おわっ! ちょっと待てよ。俺は泥棒とかそんなんじゃなくて――」  青年が言い終わる前に、 「じゃあ、不法侵入だ!」  叫んで、青年の頭部に手加減なしで回し蹴りを見舞った。  その後、思い切り吹き飛んで壁に激突した青年が、悶えながら意識を失った事は言うまでもない。  ――それから、少しばかり時間が経過する。  ようやくの事、気絶していた青年は目を覚ました。 「あれ……? うわっ、頭がガンガンする……。酒なんて飲んだっけな?」  冗談混じりに言いながら、何が起こったのか思い出そうする。  が、その必要はなくなった。 「うわっ! もう起きやがった」  自分を蹴った張本人が、目の前に立っていた。  心底、嫌そうな顔で。 「あー」  何があったのか――彼女に何をされたのかを、彼は灰かぶり見て思い出した様だった。 「……お前。ちょっと、そこに座れ」  青年は、低い声で灰かぶり言った。 「は?」 「いいから、早く」  その青年の表情と口調は、微かながら怒りの感情を発している――が、残念ながら灰かぶりは察しのいい人間ではない。 「意味のわからない奴だな……」  渋々、毛ほども悪びれずに、灰かぶりは床に腰を降ろした。
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