まみれた魔法使い

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 青年は、その動作を決して温かくない目で見守った後、 「まず、俺に言う事はないか?」  灰かぶりに向かって切り出す。  青筋を立てながら。 「は? 何言ってんだ? 言う事なんて……特にないな」 「『ごめんなさい』だろ! 人を蹴り飛ばしたんだから、一言ぐらい謝れ!」 「……あ! もしかして怒ってるのか?」 「気づくの遅いわ!」  怒っていると言うより、激怒していると表現した方が正しいのだが、灰かぶりは気づいていない。 「それより、聞きたいんだが」  あくまで謝る様子もなく言った。 「だから――いや、何だよ?」  同然、不機嫌そうに青年は返した。  謝らせる事は、どうやら、あきらめたらしい。 「あんた、何者だ?」  至極、真っ当な質問。  元々育ちは悪くない灰かぶり。察しが悪くても、頭は悪くない。 「何って。通りすがりの魔法使いさんだよ」  青年は、そううそぶいた。  魔法使い――と、言った。  それは、世間知らずの灰かぶりでなくとも違和感を覚える言葉だった。  だから、彼女が、 「ああ?」  と言って首を傾げたのは、無理もない話である。  この場においての間違いは――場違いは、明らかに青年の方だった。 「魔法使いって……何の話だ?」 「俺がだよ。魔法を使えるから、魔法使いだ。わかりやすいね」 「いや、わかりにくい」  わかりにくいし、認めにくい。  そんな灰かぶりの反応を、さして気にする様子もなく、青年は続ける。 「一様、間違いのないように聞いておくが、灰かぶりってのは、お前だな?」 「ああ。そうだよ」  灰かぶりは頷く。 「……予想外に乱雑な女だな。まあ、不幸そうなら別にいいか」  青年は少し困った様に頭を掻いて、そんな風に言った。  失礼極まりない青年である。  灰かぶりの態度と比べれば、どっちもどっちだが。 「は? さっきから――いや、最初から訳のわからない事ばかり言ってんじゃねえよ。あんた、怪し過ぎるぞ」 「怪しくなかったら、魔法使いなんて名乗れないさ」  そう言い張る青年。  そして、言った。 「灰かぶり。通りすがりの魔法使いが、わざわざお前に会いに来てやったぜ」  彼女に会いに来た――と。
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