まみれた魔法使い

5/7
前へ
/15ページ
次へ
 青年は、その動作を決して温かくない目で見守った後、 「まず、俺に言う事はないか?」  灰かぶりに向かって切り出す。  青筋を立てながら。 「は? 何言ってんだ? 言う事なんて……特にないな」 「『ごめんなさい』だろ! 人を蹴り飛ばしたんだから、一言ぐらい謝れ!」 「……あ! もしかして怒ってるのか?」 「気づくの遅いわ!」  怒っていると言うより、激怒していると表現した方が正しいのだが、灰かぶりは気づいていない。 「それより、聞きたいんだが」  あくまで謝る様子もなく言った。 「だから――いや、何だよ?」  同然、不機嫌そうに青年は返した。  謝らせる事は、どうやら、あきらめたらしい。 「あんた、何者だ?」  至極、真っ当な質問。  元々育ちは悪くない灰かぶり。察しが悪くても、頭は悪くない。 「何って。通りすがりの魔法使いさんだよ」  青年は、そううそぶいた。  魔法使い――と、言った。  それは、世間知らずの灰かぶりでなくとも違和感を覚える言葉だった。  だから、彼女が、 「ああ?」  と言って首を傾げたのは、無理もない話である。  この場においての間違いは――場違いは、明らかに青年の方だった。 「魔法使いって……何の話だ?」 「俺がだよ。魔法を使えるから、魔法使いだ。わかりやすいね」 「いや、わかりにくい」  わかりにくいし、認めにくい。  そんな灰かぶりの反応を、さして気にする様子もなく、青年は続ける。 「一様、間違いのないように聞いておくが、灰かぶりってのは、お前だな?」 「ああ。そうだよ」  灰かぶりは頷く。 「……予想外に乱雑な女だな。まあ、不幸そうなら別にいいか」  青年は少し困った様に頭を掻いて、そんな風に言った。  失礼極まりない青年である。  灰かぶりの態度と比べれば、どっちもどっちだが。 「は? さっきから――いや、最初から訳のわからない事ばかり言ってんじゃねえよ。あんた、怪し過ぎるぞ」 「怪しくなかったら、魔法使いなんて名乗れないさ」  そう言い張る青年。  そして、言った。 「灰かぶり。通りすがりの魔法使いが、わざわざお前に会いに来てやったぜ」  彼女に会いに来た――と。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加